アジア人の顔立ちに合わせた精密なフレーム設計で、韓国の眼鏡愛好家たちにも高い人気を誇る日本のアイウェアブランド「アイ・エノモト(I.ENOMOTO)」。そのデザイナーであり、ブランドを率いる榎本郁也氏。
彼は約20年にわたり眼鏡デザイナーとしてキャリアを積み、綿密な研究を重ねる中で、アイ・エノモトならではの確固たる哲学を築き上げてきた。その哲学は、美しさと快適な掛け心地を重ね備えた、洗練されたプロダクトとして結実している。
一見シンプルで日常使いしやすいデザインでありながら、細部にまでこだわり抜かれたバランスの良さと軽さが特徴の眼鏡。つい手に取ってしまう魅力を持つその作品について、榎本氏に話を伺った。@i.enomoto
Urbanic(以下U): 簡単な自己紹介と「I.ENOMOTO」について少し詳しくお話ください。
Ikuya Enomoto(以下l): 榎本は東京の郊外で生まれ育ちました。両親は公務員で安定した生活を送っていましたが自分にはなにか違った道が良いと考えていました。美術大学で工芸工業デザインを学んでいた当時「眼鏡デザイナー」という職業を知り、工業デザインやファッション、医療といった複数分野にまたがるデザインジャンルとして興味を覚えました。そして福井県にあるフレームメーカーにデザイナーとして入社したところからアイウェアデザイナーとしてのキャリアをスタートしました。そこから約 20 年間国内外で眼鏡フレーム及びサングラスに特化したデザインに取り組んできて、2017 年に自然発生的に「I.ENOMOTO™」を創設しました。
U: I.ENOMOTOのロゴデザインには所々数字に見える要素がありますが、この数字に込められた思いや意図はブランドとどのように結びついていますか?
l: このロゴはご指摘の通り数字をモチーフにデザインされています(ロゴをよく見るとアルファベットではなく、数字の「1」、「3」、「0」を左右反転させて配置することで「I.ENOMOTO」を表現している。)。これは精緻に考えられた眼鏡のブランドであるとともに、数字を用いることで特定の文化背景を示すことなく多くの人にニュートラルにブランドの持つイメージを受け取ってもらえるようにするためです。
U: 「I.ENOMOTO」を2-3つのキーワードで表現するとしたら、どのような言葉が思い浮かびますか?
l: 「Timeless」「Quality」「ファッション性と装具性がミックスされたプロダクト」
U: I.ENOMOTOの唯一無二の魅力についてお聞かせください。
l: 日本の福井県には世界最高のチタンフレームを製造できる設備を備えたファシリティが集積しています。しかしだれもがその能力を引き出せるわけではありません。I.ENOMOTOはデザインされる段階で美しさと快適さを備えた設計方法、素材の選定から各部材の製法、仕上げといった全ての工程を見通したレシピを考案し、工場の方々と連携してトップクオリティの眼鏡フレームを作り上げています。
U: 今回、IE017についてアーバニック30のお客様に紹介する際のアピールポイントを教えていただけますか?
l: IE017はI.ENOMOTO 初のアセテートフレームです。アセテートはコットンやパルプなど植物由来の樹脂素材で研磨することで特有の外観と掛け心地を得られます。ヨーロッパで作られるアセテートフレームは色彩が強く、デザインが大胆で良いものが多いです。ただその重量や設計の基になる骨格ベースが異なるため東洋の人々には掛けにくいものとなっています。
IE017は多様なヘッドサイズに対応した設計を施しました。その素材構成も日本ならではのものを採用しています。モディファイしたパリジャンと呼ばれる逆台形のアイシェイプと日本製のアセテート素材にチタン製の丁番を組み合わせ、有機的なラインを持ち、軽さとニッケルフリーを特徴とした独自の掛け心地を目指したフレームとなっています。
U: 眼鏡をデザインされる際、どのようなところからインスピレーションを受けられるのでしょうか。 また、ご自身でも意外過ぎて驚いたインスピレーションの源があれば、ぜひお聞かせください。
l: 自然の造形は最も偉大なデザインです。動物の持つラインや質感、木々や昆虫の細部はまったくもって美しくできています。神保町で見つけた古い本の中で不明瞭な挿画や記述の中でヒントを得ることもあります。また古い建築物や車、船舶といった工業製品、カトラリーや文具といった日用品のなかにも使い勝手の良さと美しさを兼ね備えたものがあります。そういったものを目にすると、それらをいったん頭の中にしまっておき、ある特定のジャンルの眼鏡フレームをデザインしようと思ったときに細かく積み重なったそれらの断片を取り出して再構築することもあります。
U: 「眼鏡」というアイテムの一番の魅力は何だと思いますか?
l: 眼鏡は「工芸工業デザイン」「ファッション」「視力矯正」といった複数分野にまたがったプロダクトジャンルです。このポジションはマイナーではあるもののユニークで、現代の生活になくてはならないものと考えています。ヨーロッパで発達したメガネというものを文化的に違った視点でデザインし、新たな構造や美しさの発見が出来るところに魅力を感じています。
U: 眼鏡を選ぶ際、最も重要だと考えるポイントや基準があれば教えてください!
l: メガネ屋さんに行く前に、一度ご自分がどのような眼鏡を求めているのか、「なりたい自分のイメージ」を知っておくことが大事です。また用途に応じてご自分が重視する各ポイント「色」「デザイン」「掛け心地」「ブランド」「価格」についても確認することが必要です。そして最後に「最も似合う」と言われたフレームよりも自分が「最も欲しい」と思うフレームを選ぶことです。
U: I.ENOMOTOの眼鏡が人々の暮らしの中でどのような存在になってほしいと願いますか?眼鏡を通じて人々にどのような体験を提供したいとお考えでしょうか?
l: I. ENOMOTOのフレームを選ばれた方には快適な日々を過ごしてほしいです。みなそれぞれ大事なやるべきことがあり、何気ない日常も人生の大切な瞬間もしっかりと見届けるために眼鏡が陰に陽に役立っていれば、それ以上のことはないと思います。